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● カルナバル 6  ●

 文化祭まで一週間もなくなった。
小物はいろいろと値段をつけられ、当日に机に並べるだけにしてある。
もちろん、木彫りの熊にも。
熊、誰か買ってくれるかな?
教室は2年E組を借りられることになった。
値段をつけた小物は部活の紹介を書き終えた模造紙と一緒に部室に置いてある。
写真は模造紙を丸める関係で、前日に貼ることになった。
何か、まだ嘘みたい。
文化祭に陸上部として参加するなんて。
そろそろ来月の県新人大会に向けて練習しなくちゃいけないのに。

 
 2年B組の教室も文化祭の準備でいっぱいになってきた。
やりたい人を集めて演劇をするんだって智穂から聞いた。
演劇部がないからか、簡単にOKが出たみたいだ。
智穂は器用さから、衣装係を手伝っている。
あたしは陸上部にかかりっきりだから何も手伝えないでいるけど、もし当日時間があれば体育館に見に行くつもりでいる。

 
 放課後、部室で写真の入った箱を開きながら伊狩さんがつぶやいた。
「赤垣くんの分の写真ないんだけど、どうする?」
そうか。
山内先生にお願いして、校内陸上大会や中平市中体連、そして県大会の写真をいくつか借りてきて展示することにした。
けど、校内陸上大会にも中平市中体連にも参加していない展人の写真はないんだ。
県大会も競技には参加してないから、写真はまったくないことになるのかな?
「今年初めの写真でよければ、明日持ってくるよ」
展人が答える。



 「当日の担当を決めるから、集まって」
酒井さんの声でみんながそれぞれの場所から集まる。
目の前の机には一日の時間を細かく分けた紙が一枚、置いてある。
「希望の時間帯があるやつは申し出てくれ。 で、藤谷と鈴木は同じ時間帯でいいのか?」
板河くんの言葉にあたしは顔をあげた。
「何で?」
「お前ら文化祭一緒に回らないのか? 一緒に回るなら時間帯を同じにした方がいいだろう」
顔がかっと熱くなる。
そっか、そういうことね。
陸上部のみんなはあたしたちが……その、恋人だって知ってるから。
でも気を回してもらって悪いけど、鈴木とその話は出てないんだよね。
どうしようかな。
「だったらまず、みんなの希望で埋めてくれ。 俺たちの分はそれから考えるよ」
鈴木が板河くんに言う。


 『俺たち』って言ってた。
その中にあたしが含まれてる。
鈴木の中に『彼女』としてのあたしがいると思うと、ちょっとドキッとした。

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