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● カルナバル 7  ●

 「あんまり遅いと展示とか見られなくなるよなぁ」
部活の帰り道、鈴木がつぶやいた。
文化祭の担当時間をどこにするか迷っているみたい。
あたしは初日の早い時間帯の方が人があまり来なくて楽なのかな?と思っているけど、鈴木はどう思っているんだろう。
「藤谷はどこの時間帯がいいと思う?」
急に話が自分に向けられて、あたしは驚く。
「初日の早い時間は人があんまり来ないんじゃないかな? それか二日目の最後とか。 でも、みんなの希望もあるからすぐに決めなくてもいいんじゃないの?」
「いや、いざとなってから二人の希望が違ってたらおかしいかなと思ったからさ」
そういうことね。
あたしはすぐに納得した。
「そうだね。 あと、あたしB組の演劇見たいんだ。 その時間を外してくれるならどこでも大丈夫だよ」
「あぁ、わかった。 じゃあ、そういうことにしよう」
「もしダメだったら、演劇の時間とぶつかってもいいからね」
「でもそんなに希望時間がぶつかるってことはないんじゃないか?」
そのへんは決めてみないとわからない。
どうなるかわからないものを迷うのは、あたしのガラじゃないんだけど。
「万が一ってこともあるでしょ」
もしダメだったら、あとは行き当たりばったりでもしょうがないや。


 歩きながら、鈴木があたしの手をつなぐ。
何かまだ慣れない。
あたしばっかりドキドキしてるみたいで、時々悔しくなる。


 「俺、文化祭楽しみなんだ」
ふと、鈴木が言った。
「ほら、去年は参加してなかったし」
鈴木は去年の文化祭の日、風邪をこじらせて二日間とも出て来れなかったと佐々田に後から聞いた。
「あたしだって楽しみだよ」
陸上部に入ったのに部として文化祭に参加するなんて思ってもいなかった。
「だから一緒に回ろうな」
その言葉にあたしはうなずいた。
今、二人とも同じ気持ちでいる。
そう思った。
まったく同じ気持ちなんてあるわけないのかもしれない。
それでも、二人が同じ歩幅で歩いていると信じられる。



 「俺と二人で回るのが嫌なら、河内や葛西とか赤垣や佐々田も誘うから」
二人が嫌だなんて言ってないのに、鈴木はそんな風に言う。
「嫌じゃないよ」
あたしは『大好きだから』と続けようとしたけど、どうしても照れてしまって言葉にならなかった。


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