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 長い、女子だけのホームルームが終わり、部活へと急いだ。
「どうだった?」
鈴木があたしの顔を見たか見ないかのうちに、尋ねてくる。
指で小さく『OK』のサインを出した。
「よかったじゃん。で、あれは何だ?」
「へ?」
『あれ』って、何だろう?
振り返ると、暗い顔をして準備体操をしている世良が目に入る。
「河内はいったい、どうしたんだ?」
さっきのこと、まだ気になっているんだろう。
あとでじっくり話をしないと。
「何でもないよ」
「友だちなんだから、何かあったら言えよ。俺で役に立てるか判んないけどさ」
もし、あとでもめるようなことになったら力を借りよう。
ありがたく気持ちを受け取ろう。
「ありがとう」
心配をかけたくなくて、精一杯の笑顔を見せる。



準備体操をして学校の外周を走っているときに、世良が声をかけてくる。
「帰りに話があるから」
それだけ言って、力強くあたしを追い抜いていった。





 部活が終わると、空はもう真っ暗になっている。
制服に着替えるのがもどかしく、体育着のままカバンと制服を入れたリュックをかかえた。




世良と歩きながら、ずっとあの取引条件を考えていたことを話した。
「なら、前の日にあたしに言ったことは嘘だったの?」
「違うよ。……世良とあたしが互いの競技を交換することの方が最悪の状態だった時の条件にしていたんだ。
あたしも100で世良も200で出られたらいいと思ったんだ。あたしたちもだけど陸上部のみんなには時間がないから」
県レベルの大会は今回を入れても3回しかない。
「『上にいけるチャンスがあるなら、少しでも狙った方がいい』と思った。 だましたわけじゃない」
だましてなんかいないことだけ判ってもらえたらいい。
それ以上は望まない。
他人のことを100パーセント判るということはありえないなら。
「できるだけ最高の状態で上に行きたかった。 あたしは100で、世良が200に出ることが一番ベストだと感じた。
だから、どんなことをしてでも行ける方法を取ったの。
黙っていたことは悪かったと思ってる。本当にごめん」
100が速い人間が200もいけるか、といわれれば、その答えは『NO』だ。
確かにそういう器用な人もいるかもしれない。
しかし、ペース配分などはまったく違う。
両方ともスタートの瞬発力は必要だが、ラストスパートへ向かうタイミングなどは異なる。



         
 世良は黙ってあたしの話を聞いていた。
が、突然、目から涙を流し始める。
「ちょ、どうしたの?!」
「……悔しい」
「え?」
「瞳に、こんな、決意をさせるまで気づかなかった……」
「世良が悔しがることないよ。あたしが勝手にやったんだもの」
「それでも何か、気づくことあったはずなのに……友だちなんだから……」




 あたしと世良は欲しい結果を得た、はずだった。
――なら、どうして、世良が目の前で泣いているんだ?



あたしは間違えたんだろうか。
これが大事な友だちを泣かせてまで、欲しかった結果だったんだろうか。



         


                                                   
 第七話(6)・終
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