「世良、あたしが負けると思ってる?」
世良は涙目のまま、首を横に振る。
「思わないよ」
「なら、もう泣かないで。 あたしは勝つわ。 勝って望む物を手に入れる」
世良が小さく笑う。
「委員長の言うとおりだね」
「何が?」
「自信満々なところが」
あたしも小さく笑う。
「そうかもね」
いつも、心を強くしていたい。
そうしなければ、周囲の意見に引きずられてしまう。
そんな、弱いあたしはいらない。
――それが、自信ありそうに見えるのかな。
次の日の朝練には、顧問の山内先生も参加してきた。
「重野、河内、途中で力を抜くな! 最後まで全力疾走で行け!」
「鈴木、腕が振れていないぞ! もっと腕を振れ!」
「牧村、跳ぶ時の踏み切りが甘いぞ!」
グラウンドに、先生の厳しい声が飛ぶ。
放課後も朝練と同じように、先生も参加した。
みんなと同じように、あたしにも声が飛ぶ。
『ヨーイ、ゴー!』
クラウチングスタートから、先生の手拍子で走り出す。
雷管と呼ばれる、競技用ピストルは使わない。
火薬が危険だし、音がすごい響くんだ。
「藤谷、スタートが早いぞ。 あんまり早いとフライングになるから気をつけろ」
「はい」
「二回やると失格になるからな」
「わかりました」
昨日までもめていた2年B組を除いて、各クラスの選手が決まったはずだ。
今まで監督しているだけだったけど、先生が朝練まで参加してきたということはきっと先生も本気なんだな。
陸上部を育てていく気でいる、と感じる。
あたしたちが上に行く。
そのことがまだ始まったばかりのこの部を育てていくことになるなら、行けるところまで行ってみよう。
けれど、一つだけ迷っていることがある。
――鈴木や佐々田に、『賭け』のことを言おうか。
昨日の世良みたいな反応をされるのが、とても怖い。
女子同士のことを男子にどれだけわかってもらえるだろうか。
自信がない。
第七話(7)・終