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 四月の最後の土曜日、校内陸上大会が始まった。
クラスごとに鉢巻きの色が違っていて、2年B組は青色だ。



 あたしは結局、鈴木たちに『賭け』のことを話せずにいた。
わかってもらえるかどうか、ということだけでなく、何より迷惑をかけたくなかった。
協力してもらった方がいいのはわかっている。
でも、委員長の恨みも含めた個人的なことに、関係ない鈴木たちを巻き込んでいいのか。
心が揺れたまま、今日を迎えた。



          
 委員長が開会式の整列の時に、声をかけてきた。
「約束はわかってるよね?」
うなずき返したら、すっと前の方へ歩いていった。



 開会式の後に教室前で、鈴木と佐々田につかまった。
今日の『取引』のことを女子の誰かから、聞いたらしい。
「いったい、どういうことなんだよ? 河内や他の女子に聞いても『瞳に聞いて』だの『藤谷さんに聞いて』しか言わないし」
2年B組女子の団結力は、思わぬところで発揮されたようだ。
二人にかんたんに事情を説明する。
―――あたしが100に出るかわりに今日の校内陸上大会で勝つこと、もし2年B組が優勝できなかったら髪を切ると約束したこと。
「何だよ、それ!」
「くみちょーは止めてくれなかったのか?」
二人は怒りながら、あたしに尋ねる。
「止めてくれるわけないでしょう。そこまでくみちょーに期待してなかったから別にかまわないわ。 それに仮に止めたって、妥協点がない限りあたしと委員長の間で堂々巡りするだけだし」
くみちょーこと七尾先生には最初から場を仕切ることすら、与えられていなかった。
生徒たちにまかせる、というよりは、初めての担任でどうすべきか迷っていたんだと思う。
最後まで仕切りは委員長である斎木彩花によるものだった。                                                            

           
 「藤谷、どうして今日まで教えてくれなかったんだよ?! ……俺たち、友だちじゃないのかよ!」
「友だちだから、言えなかった」
「何で」
「女子同士のことだし、迷惑になると思ったから」
「ばかやろう! 友だちのことで迷惑になることなんかあるかよ!!」
鈴木にひときわひどく怒鳴られた。
「確かに俺たちは男だから、女子同士のこととかわかんないよ。でも、相談してくれたら何かしら答えられることだってあるかもしれないだろ? 何のための友だちだ? 楽しいばっかり分け合うのが友だちじゃないだろ?」
「言いづらいのもあっただろうけど、ちゃんと昨日までに聞きたかったよ」
鈴木の言葉を佐々田がつなぐ。
この間、世良が泣きながら言いたかったのも、こういうことだったのかもしれない。



 「2-Bの優勝がかかっているなら、当然、男子も知る権利はあるよなぁ」
「競技開始時間までに伝言回すか」
「そうするか。『死ぬ気で1位取れ!』ってな」
男子二人は面白い遊びでも見つけたように、いたずらっぽく笑っている。
「さらに俺が一位取れば、優勝の可能性は高くなるだろ。――待ってろ」
鈴木があたしの肩を軽く叩いた。
二人は教室に入らず、あっという間に走っていってしまう。




 ―――ずるい。
どうして、男の子は簡単に垣根を飛び越えてしまうんだろう。
『友だち』という、最強の言葉でもって。
あたしが悩んでいたことなんて嘘だったみたいに。






                                                  
第七話(8)・終
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