教室に忘れたハチマキを取ってグラウンドに戻ると、ちょうど「3年女子、70M予選を始めます」というアナウンスが流れてきた。
校内陸上大会には予選と決勝がある。
中平市の中学陸上大会と同じ形式なのだ。
まずは市の陸上大会に出る前に校内陸上でその形式に慣らしておこう、というのが狙いらしい。
予選で5位以内が決勝にあがることになる。
そして決勝で1位になった人のクラスに10点を加算する。
以下2位が8点、3位が6点……という風に、5位まで点数が入る。
最終的にその合計点が高いクラスが優勝、という形だ。
総合優勝するには、何としても予選で5位以内、そして決勝で1位になるしかない。
「2年女子100M予選を始めます。選手はすぐにスタート地点に集合してください」
校庭に準備した自分の椅子から立ち上がると、その場にいるクラスのみんなが一斉にこっちを見る。
男子も女子も一緒くたで。
男子までもがこっちを見ているのは、佐々田と鈴木の伝言のせいなのか。
さっきといい妙なところで団結力あるなぁ、うちのクラスは。
「藤谷、これ」
鈴木から渡されたのは、ハチマキだった。
え、何で? あたし、自分の持ってるのに。
「持ってるよ?」
青のハチマキを持った手を掲げてみせる。
「いいから、こっち使え」
何だかよくわからないけど、自分のものを席に置き直して受け取った方を使うことにした。
「ありがと」
あたし以外はすでにスタート地点に集合していた。
2年女子100Mの選手は17人、この中から5人にしぼられるのか。
「男子といちゃついて集合に遅れるなんて、余裕だよねぇ」
ハチマキを結んでいたら、後ろで誰かが囁いたが気にならなかった。
――余裕なんか、どこにあるって?
気持ちはもういっぱいいっぱいだ。
胸の中開いて見せてやりたいくらいに。
ジャージの上下を脱いで、半袖短パン姿になる。
一度、深呼吸をする。
それからその場で軽くジャンプする。
指定されたコースに入る。
あたしは3コースに入った。
腰を落とし、クラウチングスタートの体勢を取る。
軽くダッシュしてみる。
スターティングブロックがなくても、この方が走りやすい。
左足を前に置く。
「位置について、用意」
ひときわ高く、スタートの合図が鳴った。
第七話(9)・終