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● 葉月 2  ●

 貯金箱をひっくり返して小銭を数えながら中身を確認する。
通帳にだいぶ長いこと入れてなかったから、おこづかい前借りしなくても大丈夫かも。
よかった。
「お祭りに行く」って言えばお母さんはお金をくれるだろうけど、何かうしろめたい気がする。


 お祭りに何を着ようかなぁ。
Tシャツとジーンズじゃ普段と変わらないしなぁ。
彼氏とのおでかけなんだから、女の子っぽくした方がいいよね。
たんすの引き出しを開けて、服をありったけベッドの上に並べる。
並べた服を見つめながら、考え込む。
よく考えたら、あたし、制服以外でスカートって持ってない。
お母さんにワンピースのひとつもねだっておけばよかった。
お姉ちゃんに借りようかな。


 夕食のとき、お母さんが聞いた。
「あなたたち、七島神社のお祭り行くんでしょ?」
お姉ちゃんと和紗が先に答える。
「うん」
「うん、行くよ」
「瞳は?」
「行くよ」
普通に返事できたかわからないけど、答える。
「お祭りの日のお夕飯いらないなら、あらかじめ言っておいてちょうだいね。 それと、三人ともゆかたは着ないの?」
「ゆかた?」
ゆかたなんてあったんだ。
「もし着るなら後で出してみるけど、着る?」
どんなのだっけ?
見るだけでも見てみたい。
「見てから着るか決めてもいい?」
あたしが言うと、お母さんは少し驚いた顔をした。
そんなこと言い出すなんて思ってなかったのかも。
「いいわよ」


 お姉ちゃんと和紗と三人で夕食の片づけをしている間に、お母さんが部屋にゆかたを用意してくれていた。
三人で台所に立つっていうのは久しぶりだ。
片づけがちょうど終わったころ、奥の部屋にいるお母さんがあたしたちを呼んだ。


 お母さんとお父さんの部屋に行くと、三枚のゆかたがハンガーにかけられていた。
「和紗のはこれ」
和紗に渡されたのは、白に赤い金魚の柄のゆかた。
「水樹のはこれ」
お姉ちゃんに渡されたのは、薄いピンクに桔梗の花模様のゆかた。
「瞳のはこれ」
あたしに渡されたのは、赤に大きな白い花のゆかただった。
これ、あたしには大人っぽくないかなぁ?
「どうする? 三人とも着る?」
お母さんが聞いてくる。


 「着る」
一番最初に答えていたのは、あたしだった。
夏だし、お祭りだし、着てもおかしくない。
こんなにきれいなゆかただし、ちょっとくらい大人っぽくてもいいや。 
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