●● ON YOUR MARK 10 ●●
「玄関先でバタバタしちゃったな。 さぁ、あがってくれ」
鈴木があたしたちに家に入るように促した。
と、そこへ制服を着替えてきた世良と佐々田がやって来る。
「あれ?」
「お前ら、先に行ったはずなのにまだこんなところにいたのか」
「あぁ、藤谷と葛西に友絵が絡んでな」
「何で?」
「最近俺に彼女がいるかどうかうるさいんだ、あいつ」
鈴木が困ったというか仕方ないような顔で、世良に言った。
「で、あんたは何て答えたの?」
ちょっと、世良!!
あたしは内心、あわてる。
さっきのでさえ地味に衝撃が来たのに、また『友だち』としか思ってないなんて、再確認させられたくないってば!
「佐々田、その袋は何だ?」
展人が佐々田がぶら下げてきたビニール袋をのぞき込む。
タイミングがいいのか悪いのか。
「菓子とジュース、母親が持ってけってさ」
思わぬ差し入れだ。
「お母さんにありがとう、って伝えて」
「あぁ、伝えとく」
「ほら、みんな入ってくれ。 あんまり時間ないんだからな」
鈴木の声を聞いて、みんな家の中に入っていった。
「おじゃまします」
「おじゃましまーす」
みんなそれぞれに声をかけてから家にあがる。
鈴木以外の家の人がいないとわかっていても、それは常識だと思う。
鈴木を先頭として階段を登る。
廊下の一番先の部屋の扉が開いている。
そこが鈴木の部屋だ。
落ち着け、あたし。
だから、前に何度も来てるのに。
シンプルな家具に勉強机とベッド、本棚がある。
机の上の教科書がなければ、誰の部屋なのかわからないぐらいに整えられている。
「テーブルが小さいけど、我慢してくれ」
部屋の真ん中に置かれたテーブルは正方形で、六人で座るには確かに狭いかも。
ちょっと詰め気味に腰を下ろす。
「何か……きれいすぎないか?」
部屋をぐるりと見渡して、佐々田が言う。
「あぁ、昨夜思いっきり片付けたから」
「それって現実逃避ってやつじゃ……」
展人がふいにベッドの下に手を潜らせる。
あたしはその意味がわからず、きょとんとしてしまう。
何か探してる?
「赤垣、何やってんだ?」
「いやぁ、あやしい本とか隠してないかと思ってさ」
「そんなもの、ないに決まってるだろう!! 俺たちだけならともかく、女子もいるところでそういうこと言うなよ!」
鈴木が顔を赤くして怒っている。
あたしたちにも関わることかな?
よくわからないけど、男の子はベッドの下に何かを隠すものなんだってことか。
「あたしたちは数学やろうと思うんだけど、そっちは何の科目中心でやるわけ?」
智穂が男子たちに向かって言うと、三人がこっちを向いた。
「特に何やろうってわけじゃないけど……国語か英語やろうかなって」
「そしたら、あたしそっち混ざるよ。 英語やばいんだ」
いきなり世良が言う。
「で、誰か数学強い人いない? 瞳に教えてあげて」
「あ、じゃあ俺がそっち行く」
そう言ったのは……鈴木だった。
あたしはまたあわてる。
二人が互いの位置を移動すると、誰ともなく勉強を始める。
シャープペンの音がノートに響く。
「赤垣くん、ここって……」
「そこはここが動詞で、……」
世良と展人のやり取りが聞こえるが、それどころじゃない。
ふと顔をあげると、佐々田が怖いぐらいに展人を見ている。
あれ?
もしかして、佐々田って……。
「瞳、よそ見しない」
智穂に怒られた。
そうだよね。
人のことどうこう考えてる場合じゃない。
それなのに手に握られたシャープペンの芯は何文字も書かないうちにポキポキと音を立てて折れ続ける。
うまく字が書けない。
右手をやっと動かせるぐらいの距離で見つめられてる。
あたしの態度、おかしくないかな?
せっかく勉強しに来たのにちっとも身に入らない。
「そこ公式間違ってる」
「えっ、どこ?」
鈴木の声にノートを見ても、どこが違うのかよくわからない。
「ちょっと貸して」
あたしの手からシャープペンが奪い取られた。
鈴木がそれを使って、どこが違うのかチェックしてくれる。
無意識なのか、シャープペンの頭の部分が鈴木の唇に触れている。
――あのシャープペン、宝物にしよう。
いろんなことがありすぎて、ぼんやりした頭でそんなことを思った。
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