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● ON YOUR MARK 11  ●

 一学期末テストは、三日間かけて主要五教科と実技四科目のテストだ。
二年生の2日目は、数学・音楽・社会の三教科だった。



 一時間目の数学を終えた時には、あたしは何時間もテストを受けたみたいにぐったりしてしまった。
この前、鈴木や智穂に教わったところは何とか回答できたと思う。
机に突っ伏していると、隣に座る鈴木に声をかけられた。
テストの時は出席番号順なので、あたしと鈴木は隣なんだ。
「藤谷、生きてるか?」
「疲れた。 ボロボロ。 もうだめ」
あたしは顔をあげないまま、答えた。
「明日で終わりだ。 がんばろうぜ」
「うん」
ふと顔をあげると、教室の入口付近でこちらを見ている梁瀬やなせさんと目が合う。
手にした教科書で隠しているみたいに見えるけど、バレバレだ。
鈴木は向けられた視線に気づかないのか、音楽のプリントに目をやっている。
鈴木のこと見てたのかな。
きっとそうだよね。
でなきゃ、A組の梁瀬さんがわざわざB組の教室入口付近にいることの説明がつかない。
A組の後ろの入口とB組の前の出入口が近いから、言い訳はしようと思えばできなくもないだろうけど。
B組って梁瀬さんの友だちいたかな?


 何か……嫌だな。
誰を見ていようともそんなの人の勝手だし、それはわかってる。
今まであたしが気づかなかっただけで、あんな風に梁瀬さんはずっと鈴木を見ていたのだろうか。
こっちを見て欲しいような、見て欲しくないような微妙で複雑な感情を隠し持って。
あたしも鈴木を見ているときは、他人からあんな風に見えているのだろうか?
他人の恋心、しかも自分の好きな人に向かう好意を改めて胸元に突きつけられる。
あからさまな感情を見せつけられて、胸が苦しい。



 そのあとの二時間分のテストはどうやって受けたのか、覚えていない。
解答用紙に名前を書いたところまでは覚えてるけど、両方の時間とも『気づいたら終わっていた』としか言いようがなかった。
社会は少しだけ自信があったのに、何書いたか覚えてないなんて最悪だ。
今日は三時間だけなので、掃除もしなくていいし給食もない。
担任であるくみちょーが教室に来て、簡単にホームルームをして解散になる。
「暑っついねぇ。 五十鈴屋行く?」
昇降口から一歩出たとたんに世良が呟いた。
「そうだね、行こう。 それにもうすぐ夏休みだもん、暑くて当たり前だよ」
智穂が言い聞かせるように告げる。
そうか、もうすぐ夏休みなんだ。



 夏休み中は、会えるかな?
休み中の約束できるかな? 
友だちなんだから、してもおかしくないよね?
いきなり二人きりとかじゃなくて、みんなでどこか遊びに行けたらいい。
そう考えて、はっとする。
夏休み中も部活がある。
ということは、八月のお盆中以外はほぼ毎日会える。
嬉しい。
同じ部活でよかった。



 すぐに来る夏休みばかりに頭が行っていて、テストの結果や通知表、県大会のことをその時のあたしはすっかり忘れていた。

  
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