●● ON YOUR MARK 12 ●●
期末テストは三日目の国語・美術・家庭科も無事終わった。
国語以外はまったく自信なしなんだけどね。
勉強から解放されて部活に集中できると思っていたあたしだが、夏休みと県大会の前にやってくるものが一つだけあった。
通知表。
テスト結果の返却も怖いが、そっちの方がもっと恐ろしい。
夏休みになるからって、そうそう浮かれてもいられないみたいだ。
テスト明けの月曜日の放課後、あたしと世良は競うように部室へと向かっていた。
「二人とも、何でそんなに急ぐのよぉー!!」
後ろから智穂の叫び声が聞こえたような気がしたが、それに返事をする間さえもったいないと感じるほどだ。
「お前ら、暑いのに元気だなぁ」
鈴木がほぼ同時に部室に入ったあたしたちを見て笑った。
「夏生まれだし、まだ若いからね!!」
世良が胸をはって答える。
とたんに先に来ていた展人が笑い出した。
「どう考えても一年生の方が若いだろうが。 ってか、瞳は俺より誕生日早いぞ」
そうなんだよね。
あたしは四月生まれで、展人は六月生まれ。
おかげでもう十四歳になってしまったんだ。
鈴木がぼそりと呟く。
「俺も夏生まれだけど、暑いのは嫌いだ」
え? 鈴木って誕生日いつだっけ?
小学校の時は出席番号が生まれ順だった。
昔書いてもらったサイン帳に書いてあるはず。
確か七月の後半だってことは覚えてるんだけどなぁ。
もしかしたら県大会とぶつかるかな?
誕生日プレゼントとか用意してもおかしくないよね?
友だちなんだから。
よし、家帰ったらサイン帳の確認をしよう。
みんなの集まり具合も普段よりだいぶ早かった。
それだけみんなも部活の再開を待っていたに違いない。
今日から県大会のことだけ考えていていいんだ。
そう思うと、自然と顔がにやける。
こんなに『走りたい』と思ったことは初めてだ。
今では何日も走らずにいると、体の動きまで鈍った気がする。
こんなこと、入部当初は考えたこともなかった。
こんな風に自分の体が変わっていくなんて。
それだけ心も体も陸上に、走ることにとらわれてしまったというのか。
県大会まではもう10日もないけれど、焦りとか力みは自分でも不思議なほど感じていない。
あるのは恵庭冴良との決着だけ。
練習が確実に身についていたことは、校内陸上大会の時にわかっている。
ならば地道に練習あるのみだ。
顔も知らないライバルたちに会えることさえも楽しみに感じてる。
何だかわくわくしてきた。
部室に置かれたままの『陸上ファン』、借りて帰ろうかなぁ。
だいたい去年の新人戦に出てる一年生が、今年の二年生になって出てくるんだろう。
途中でやめちゃう子や、あたしたちみたいなのは例外だろうけど。
あれを見ればだいたい、どんな選手が出てくるのかわかるかもしれない。
Copyright (c) 2009 Ai Sunahara All rights reserved.
-Powered by HTML DWARF-