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● ON YOUR MARK 14  ●

 「ねぇ、さっきあたしたち、すごいにらまれてなかった?」
世良が帰り道でそんな言葉を口にして、あたしはびっくりしてしまう。
智穂も一緒に帰ろうと思って美術室をのぞいたが、美術部は早く終わったみたいでもう帰ってしまっていた。
「そうかなぁ?」
あたしは判っていてわざと言葉をにごす。
世良はあたしが鈴木を好きなのを知ってるけど、梁瀬さんもだとは知らない。
彼女の想いを勝手に教えてしまうことは、いくら友だちでもできない。
「梁瀬さん、絶対にらんでたって! あたしたちを見る目がこんなんなってた! 鈴木たちを見てる時は戻ってたみたいだけど」
世良が自分の目のはしっこを指でつりあげる。
「赤垣くん狙いかなぁ? そういうの最近落ち着いてきてたのにね」
展人が転入してきてからあたしにからんでいた女子たちは、あたしたちの様子を見ていとこ同士以外のものはないと感じたのか、最近はつかまることもなくなっていた。



 「お前ら、歩くの早ぇよ」
暗闇で後ろから声をかけられて、あたしと世良は同時に叫び声をあげた。
「きゃーー!!!」
「わぁーーー!!」
走って逃げようとしたが、肩に手を置かれる。
「待てよ、俺たちだってば!!」
おそるおそる振り返ると、展人と鈴木、それに佐々田が立っていた。
一番後ろにいた佐々田はお腹を抱えて笑っていた。
「何がそんなにおかしいのよ?」 
あたしが佐々田に尋ねると笑いすぎたのか、かすれ声で答えた。
「河内の……『きゃーー』はともかく……、『わぁーーー』って……明らかに女子の叫び声じゃないだろ……」
「よけいなお世話です!」
いつまでも笑い続ける佐々田の頭を平手で軽く叩く。
「今さら女子っぽいことできるか? この藤谷が」
鈴木がそう言うと、展人が隣でうなずいている。
そんなことどうでもいいじゃないの、まったく!
女子らしくできないことは同意するけどさ。
「あ、見て!」
世良が指さした空には、いくつかの星が輝き始めていた。
街の明かりのない方――山側に見える星たちを見ながら、いつまでもみんなとこうしていたい思いで胸がいっぱいになる。
それだけでは満足できないことをあたしはもう知っているのに。

       

 「鈴木、誕生日に欲しいものってある?」
鈴木の方を見られないことを知られたくなくて、星を見上げたまま尋ねる。
「えっ? 何かくれるのか?」
「たとえば、だよ。 誕生日近いんでしょ?」
七月の終わりの方ってことしかまだ思い出せてないんだけど、言ってみる。
そういえば鈴木や佐々田に誕生日に特別お祝いってしたことないかも。
去年は二人とも確か部活帰りにアイスとか食べ物を五十鈴屋でおごった気がするな。
「うーん……今なら自転車とか? ちょうど壊れかけてるんだよなぁ」
自転車かぁ。
それは無理だわ。
「嘘だよ。 ……それ、はダメなんだっけか」
「え?」
「それ」
指さされた先は、あたしの右手首。
青と白とオレンジの三色でできているプロミスリング。
和紗からの贈り物。
「これはだめなんだ」
「そうだよな。 妹にもらったって前に言ってたもんな」
「ごめん」
鈴木は残念そうな顔をしている。
あたしも和紗がくれたものでなければ、あげたいぐらいだ。 



 ――プロミスリングの作り方、和紗に教わろう。
まったく同じ色じゃいかにもペアですって言ってるようなものだし、それじゃバレバレだから、別な色にしよう。
鈴木が好きだって言ってた、赤を入れて。

         
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