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● ON YOUR MARK 16  ●

 編み始めたプロミスリングは二時間で出来上がった。
あたしにしては上出来だ。
「慣れれば一時間もしないで作れるようになるよ」
あたしの手本に使ったものを編み終えた和紗が言った。
編み目も間違いそうになったらちゃんと直した。
自分の物だったら多少失敗しても、まぁいっか、でごまかしてしまった
だろうけど、他人にあげる物だからよけいに力が入ったのかもしれない。
好きな人となったらなおさらだ。
机の引き出しから空色のレターセットを出し、封筒を一枚抜き取る。
プロミスリングを封筒に入れ、引き出しにしまう。
渡すのは25日。
忘れないようにしないと。



夏休み前の授業はテストの答案返しと答え合わせであっという間に過ぎた。
一番気にかかっていた数学は前よりもちょっとまし、といったところだ。
国語・英語は今まで通りだったし、理科も意外と点数がついてた。
家庭科や美術も予想の範囲内で、まぁまぁといったところ。
最悪だったのは音楽と社会。
名前以外何書いたかさっぱり覚えていないので、当然といえば当然だった。
社会は前のテストが普通ぐらいだったので、智穂や世良たちはもちろん担任であるくみちょーにまで心配されるぐらいにひどかった。
「瞳、どうかしたの?」
「何が?」
「社会の点数が悪いなんて珍しいじゃない。 何かあったの?」
「何もないよ。 あの日は朝から体調悪かっただけ」
体育館に向かう途中で世良が尋ねた言葉に、何も気づかないふりをして答える。
梁瀬さんが気になってテストを落としたなんて、そんなのただの言い訳になる。
テストは終わってこうして結果が出た。
今更どんな理由をつけたって、点数が高くなるわけでもない。
熱に浮かされたままテストを受けた自分が悪いんだ。    



 『……校舎に残っている生徒はすみやかに体育館に移動してください……』
校内放送が流れた。
「やばいっ!」
あたしは世良とともに体育館に向かって走り出す。
今日は一学期の終業式だ。



 2年B組はあたしたち以外のみんなはちゃんと整列した後だった。
列を乱すのもどうなのかと思ったあたしたちは、一番後ろに並んだ。
鈴木と佐々田は男子の列の中間ぐらいに、展人はその三人くらい後ろにいた。
智穂はここから見えないが、だいぶ前に並んでいるはずだ。
校長先生の話は長いのかなと思っていたら、あっさり終わった。
「夏休み明けにはみんな元気な顔で戻って来てください」
「県大会に出場するみなさん、上位に残れるよう頑張ってください」
本当にこれだけだった。
聞いていたあたしたち生徒が、ぼうぜんとしてしまう程だった。         



 教室に戻って、通知表を渡されたあたしはもう少しで大声をあげて笑ってしまいそうになった。
成績が思ったほど下がっていなかったからだ。
今回のテストの点が良くなかった二教科もだ。
五段階評価で3は音楽・家庭科・数学・理科。
あとは4がほとんどで体育と国語は5がついている。
期末テストには出席点や課題の評価も入っているからだろう。
これなら夏休み中は思いっきり遊んだり、部活に専念しても大丈夫だよね。
あたしは勝手にそう結論づけた。



 ―――県大会初日まで、あと三日。
夏休みは、始まったばかり。

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