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● ON YOUR MARK 20  ●

 県大会初日の成績は、あたしと世良、鈴木と板河くん、園部くん、一年生は長距離の川村さんが準決勝に進むことになった。
走高跳の牧村くんは二十二位、走幅跳の伊狩さんは十八位、砲丸投げの川添さんは二十位と入賞とはいかなかった。
この三種目は予選なしで即本番だったみたいだ。
陸上部ができて初めての年にここまで残ったのもすごいし、嬉しい。
とは思うものの、個人としても陸上部としてもまだまだ足りない、と突きつけられたような気分が消えないでいる。
それを感じているのか、解散後、競技場から楓ヶ丘駅までみんなの歩く姿が暗い。
あたしももちろんその一員だ。
+(プラス)で拾ってもらったって、それは実力じゃない。
たまたま運が良かっただけだ。
誰にも何も言わせないぐらいの圧倒的な力が欲しい。


 「藤谷、体調気をつけろよ。 じゃ、また明日」
「瞳、具合悪くない? 大丈夫?」
電車に乗って帰る途中、みんなに同じようなことを言われた。
最後は鈴木と世良から歩きながらのダメ押しの言葉だった。
あたしは自分の予選の結果を知って、倒れそうなのを何とかこらえて朝、一生けんめい取ったシートの場所に戻るとそのまま三時間ほど眠りこんでしまったのだ。
そのあと応援に来た智穂や佐々田、お母さんや和紗のことは当然気づくはずもなく、みんなが「寝不足なのか」「いや、具合が悪いんじゃないか」「救護室に連れて行くか」「先生に知らせに行くべきじゃないか」「いっそのこと救急車呼ぶか」と迷っていたところで、目を覚ましたらしい。
寝不足だったわけでもなかったんだけど、いったい何だったんだろう?



 翌日、昨日と同じようにあたしと展人が取った場所にみんなが集まってくる。
といっても、なるべく昨日と同じ場所になるように場所を取った。
一回来ただけでは迷子になりそうなぐらい、競技場が広いのだ。
今日は準決勝の準備に行く前に鈴木の準決勝、見て行けるかな?
昨日は眠り込んでたから、結局見ていない。
見てからでも間に合うのか、確認しよう。
あたしは昨日、どこをどう回ったのか、ボロボロにされてしまったプログラムをぱらぱらとめくる。
鈴木の準決勝は十時半からで、あたしの準決勝が十一時半から。
召集が十一時十五分だとして、終わってから準備しても間に合うとは思うけど不安が残る。
今のうちに少し体を温めておこう。
九時半になるのを待って、スパイク入れを持って立ち上がる。
「あれ、藤谷さん今日そんなに出番早かった?」
近くに座っていた酒井さんに声をかけられる。
「ううん、ちょっと体温めてくるだけ」
「あんまり張り切りすぎるなよ」
展人に言われる。
わかってるってば。



 ふと、第二競技場に立っている大きな時計盤を見る。
時計は十時十分を過ぎようとしている。
もう戻らなきゃ。
本当は鈴木に声をかけて行きたい。
昨日、あたしが力をもらったみたいに。
でも、集中してるならかえって邪魔かも……。
あたしはコースの反対側にいるであろう鈴木の姿を探したが、もう召集に行ったのか、その姿は見えなかった。
急いでスパイクを脱いで、第二競技場を出る。
第一競技場のスタンドへの階段を飛ぶように駆け登る。
召集を終えた男子の一群が第一競技場に入ってくるのが見える。
階段の上からではあれが2年男子100M準決勝の選手たちなのかわからない。
スタンドの一番下、よく見える場所に移動する。
あたしはその一群の中に鈴木の姿を見つけた。
――鈴木の中の「男の人」を見た気がした。
遠くてもそれだけわかるくらい、険しい表情を彼はしていた。
あれが鈴木なの?
あたしは今まで見たことのない彼をそこに見つけて、驚きを隠せない。
遠くに行ってしまわないで。
あたしを置いて行かないで。
一人で「男の人」になってしまわないで。
いつもの鈴木を見せて欲しくて、叫んでいた。
「鈴木!!」



 順番待ちで後ろの列にいた鈴木は何かにはじかれたように、スタンドを見回した。
叫んだのがあたしだと気づいたのか、すっと右腕を高く上げた。
――それは昨日、あたしが鈴木の声に応えたときのしぐさだった。

        

 スタンドは各学校の応援合戦が始まった。
あたしたちも独自の応援歌とか旗とか作っておけばよかったな。
今度、秋の県新人までに部長に作ろうって言おう。
鈴木は二組目の二コースだ。
自分のスタートの時より緊張してるあたしは、胸の前で両手を組んでしまっていた。
神様、どうか鈴木を勝たせてください。
あたしは勝てなくてもいいから。
応援が止まる。
スタートの瞬間だ。
ピストルが鳴ったとたんに、また激しい応援合戦が後ろから襲ってくる。
もう見ていられなくて、両手を組んだまま目を閉じてしまいそうになる。
ゴールした瞬間までは確認できない。
この位置から確認できる限りでは、四位か五位だ。
決勝は八人で争う。
二組しかない2年男子100Mは四位なら決勝に残れるが、五位なら準決勝敗退だ。



 結果が気になるものの、あと三十分もしたら召集がかかる。
あたしは必要なものをシートに取りに行きながら、そのまま第二競技場へと向かった。        

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