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● ON YOUR MARK 3  ●

 あたしは智穂のノートを手に立ちつくしてしまった。
展人に声をかけていいものか、迷う。
「赤垣くん、こっちに呼ぼうか?」
世良が言うと、智穂がうなずいた。
一人でいるより居心地が悪いかもしれないけど、それでも今の状態よりきっといい。
机から離れたそのとき、あたしよりも早く展人の机に近づいたのは佐々田だった。
二人は何言か話して、教室の真ん中ぐらいにいた男子のグループへ入って行った。
「……意外だわ」
世良がつぶやいた。
あたしも同じ感想だった。
おそらく、智穂も同じだろう。
佐々田が展人に話しているのを見たのは、あたしと噂になった時以来だ。


 あたしは智穂にノートを返して、席に着く。
あのグループには鈴木がいるのに、大丈夫だろうか。
急にこの前みたいなことになったりはしないだろうかと心配だけど、そちらを向くことはできなかった。
鈴木の顔を見てしまったら、思いっきり顔をそむけてしまいそうだから。


 授業終了の鐘が鳴ると、一斉にみんなが動き出す。
机を動かす音が教室中に響く。
あたしも自分の机を前向きに直す。
――あの光景は本当なんだろうか。
2年B組で展人が、受け入れられていないかもしれない。特に男子に。
そんな現実が存在するのだろうか。
西山中学では、2年から3年にあがる時にはクラス替えがない。
今年だけじゃなく、来年もこのクラスのメンバーとやっていかなくてはいけないのに。
陸上部では牧村くんと同じ種目ということもあって会話はしているようだし、教科書を借りにC組に行っていることもあるみたいだ。
展人の友だちは彼自身が望まなければできない。
展人が今の状況を望んでいるのかもしれない。



 判っていても、口を挟んでしまいそうになる。
「できることがあるかもしれない」
そう考えてしまう。



 そんなの、あたしのわがままなのに。
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