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● ON YOUR MARK 4  ●

 展人に友だちがいないかもしれないというのは、わかった。
本人の方がしっかり現状を知っているだろう。
そうだとしても、この2年B組になじんで欲しいと思う。
あたしの勝手な気持ちだけど。
どうしたらいいんだろう。
まさか展人に「友だちいないの?」と聞けるはずがない。
だからといって、あたしが男子に頭をさげて「展人と友だちになってやってほしい」とは言えない。
女子が男子に言えないことがあるように、男子には男子にしかわからないことがある。
男子も女子も関係なくいたいけど、あたしはもうそうではいられないことを知っている。


 そんなことを考えながら教室を出ようとしたとき、入ってくる人とぶつかった。
「……った、」
おでこを押さえて下を向く。
「ごめん」
体より先に心が反応した。
ぶつかったのは鈴木だった。
はずかしいのとおでこの痛みもあって、上を向けない。
「平気か?」
顔をのぞき込まれるけど、目を合わせられない。
「大丈夫だから」
強めにぶつかったのか痛みはあったけど、少しでも早く離れたくて切り捨てるように言う。
鈴木が離れようと体を動かした瞬間、髪の毛が引っ張られた。
「痛いっ!」
声が出てしまうくらい痛い。
二つに結んだ髪の毛の先が束になって、ワイシャツのボタンに引っかかっていた。
「これ、取れるかな……」
鈴木は細い指で一生懸命に取ってくれようとしている。
「取れなかったら、切っていいよ」
あたしは下を向いたまま告げる。
毛先なら少し短くても気にならない。
鈴木の指が驚くように引かれた。
「ちゃんとほどいてやるから、待ってろ」
強い口調で言われて、あたしはうなずくしかなかった。



 結局、絡まった髪の毛は器用にほどかれた。
「ありがとう」
とても自然に鈴木の顔を見て言うことができた。
「……あのさ」
「何?」
「赤垣のことなんだけど……うちのグループに入れることになったから」
「えっ」
何で?
佐々田も鈴木もあたしとのことでもめてから、展人を嫌っていると思っていた。
だから今日、佐々田が自分のグループに展人を連れて行ったことも意外だったのだ。
「俺は同じ陸上部員だし、佐々田も藤谷の友だちってことでまったく知らないやつらのグループに一から入るよりはましだと思う」
「そうなんだ。 ありがとう!」
つい、鈴木の手を両手で握って上下に振り回してしまった。
よかった。
これで展人が教室で一人になることはないんだ。



 「そんなに……」
鈴木がつぶやく。
「え?」
「そんなに、あいつが好きなのか?」
あたしは動けなくなってしまう。
鈴木は悔しそうな、それでいて悲しそうな目であたしを見ている。
まだ、展人のことを好きだって誤解されてるんだ。



 それでも、あたしは何も答えられなかった。
「違う」と言いたいし、否定することはできる。
でもその言葉を吐き出してしまったら、想いを押さえきれなくなる。
こうして正面から見つめられているだけでも想いを押さえるのに必死なのに。 
―――言えたら、どれだけ楽なんだろう。
あたしが好きなのは、目の前にいるあなたなのだと。


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