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● TRACK AND FIELD 11  ●

準決勝に進める。
あたしはそれが嬉しくてたまらない。
なのに、いつも一緒に戦ってきた恵庭冴良はいない。
もしタイムであたしが勝っていても、一緒に準決勝にあがって行くのを疑いもしなかった。
その先の決勝も。
恵庭冴良はあたしのライバル。
そして、目標。
その目標がいない場所で走る日が来るなんて、思わなかった。
―――嘘だ。
あたしは自分の人一倍大きな目で何度も見直した結果を、まだ信じられないでいる。



 酒井さんと世良が走った女子400M予選は酒井さんが4組目の中、2位で通過した。
けど、酒井さんと別の組になった世良は6組目を5位という結果になって、予選通過できなかった。
世良は元から400Mを走っていたわけじゃない。
今日に向かって練習してきたとはいっても、ずっと400Mを走ってきた子たちに立ち向かうのは厳しかったのかもしれない。
特に2年生は入部してから一年以上の練習の成果もあるし、1年生だって入部して半年もたってる。
暑い夏を越えて、みんなその種目に対して走り方だったりスタミナだったりができてくるんじゃないだろうか。
それはあたしたちにも言えるのかもしれないけど。
「400Mちゃんと走り切りたかったなぁ、悔しい」
200Mまで走ったら集中力が切れた、と世良は言った。
「今から集中力とスタミナつけて練習したら、来年の夏の県大会は400M出られるかな?」
世良がそんな風に言い出すとは思わなかった。
「きっと出られるよ」
そう言ってみたけど、正直なところはどうなんだろう?
あたしには世良の200Mも400Mもどの位置に立っているのか、わからない。
そろそろ誰が実力があると、はっきりわかってもいい時期なのかな。
でも、見ただけでわかるかなぁ?
わからないような気がするんだけど、いつかわかるようになるかな。



 2時になる頃には、全種目の予選が終わった。
県新人大会は2日間しかない。
一部の種目は今日からもう準決勝だ。
男子は園部くん、重野くん、鈴木の三人が準決勝に進む。
女子はあたしと世良、酒井さんの三人が進む。
他種目と掛け持ち組は酒井さんが400Mと800Mで残ったけど、あとは全員予選落ち。
フィールド組は展人と牧村くんが男子走高跳、川添さんの女子砲丸投げが明日の決勝を待っている。

 

 あたしの準決勝は明日、世良の女子200Mの準決勝のすぐ後だ。 
まったく知らない人たちの中で走ることを想像すると、今からひざがふるえてる。
ライバルが、知ってる顔があるだけで安心感がこんなに違うなんて。
どんなに怖くても、あたしは走るしかない。
走ることしかできない。



 いつもと違う走り方を、環境を飛び越えて、その先にあるものを見たい。
それを何と呼ぶのかなんて知らない。
もしかしたら、走り終わっても何も残らないかもしれない。
それでも、何かがあるんじゃないかって期待してしまう。

 

 怖さと『勝ちたい』という気持ちは、あたしの中でごちゃまぜになったままうごめいている。
自分の感情なのに、止められない。

 
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