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● TRACK AND FIELD 13  ●

 よく眠れないまま、次の日を迎える。
こんな朝は初めてだ。
走ってしまえば、自分しか気にならないのか。


 2年女子100M準決勝。
この場所が怖いなんてことは言っていられない。
あたしたち2年生には引退まで時間がない。
準決勝は予想以上に厳しい。
しかも今回は午前中に準決勝、午後から決勝と慌ただしい。
集中力が切れなくていいかもしれない。


 世良の2年女子200M準決勝が終わる。
決勝に進むかどうかは結果しだいになる。
今日はみんなそれぞれ忙しいけど、荷物移動には伊狩さんが来てくれた。
「がんばって」
伊狩さんはそう声をかけてくれた。
準備にもいつもより時間をかけて、念入りに体を動かした。
あたしは2組目の6コースに入る。
6コースに入るということが、あたしはこの組では早い方ではないという証拠。
悔しいけれど、そういうことなのだ。
昨日も一緒に走った、オレンジ色のユニフォームの彼女は3コースに入る。
浦野さんといっただろうか。
彼女が昨日は同じ組の1位だ。
今日こそは負けたくない。



 昨日の、自分の足じゃないみたいな感覚はまだ残っている。
同じように走れれば、きっと決勝進出も夢じゃない。
「位置について」
その声にあたしはスターティングブロックに足をかける。
両手の指を少し立てて、スタートラインの内側に置く。
「用意」
腰をあげてスタートを待つ。
ピストルが鳴る。
 


 異変は走り始めて、すぐにやって来た。
走り方は昨日と変わっていない。
だから、またスピードに乗れると思った。
なのに、前に追いつけない。
何で?!
2位では絶対決勝に行けるとは言えない。
1位でないとダメなのに………!!
オレンジ色のユニフォームの背中を見ながら、足を力の限りに動かす。



―――結局、ゴールラインを先に越えたのはあたしじゃなかった。
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