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● TRACK AND FIELD 3  ●

 朝、いつものように制服に着がえて茶の間に行くと、展人の制服が違っていた。
「どうしたの、それ」
「『どうした』って言われても、衣替えだろ」
「違う、そうじゃなくて、」
あたしは説明しようとするけど、起きたばっかりで頭がうまく回ってない。
「何をまたあなたたちは朝から騒いでるの。 あら、展人くん似合うじゃない。 サイズ合ってる?」
「はい、合ってます。 ありがとうございます」
お母さんがあたしと展人に注意するのと同時に展人の制服姿を確認する。
『朝から騒いでる』って言われても、展人がいつもの制服じゃないのが悪いんだよ。
展人は転校してきた時に着ていた学ランじゃなくて、ブレザーを着ている。
夏休みの間にお姉ちゃんの同級生から使わない制服をもらって来て、サイズを直したみたい。
ネクタイは買ったみたいだ。
お姉ちゃんたちの時は緑色だった。
あたしたちの学年は青だから、もらっても使えない。
「やっと『西山中学』の仲間入りだ」
「え?」
もうずっと前からあたしにとって展人はいとこであり仲間だ。
それなのにどうしていまさら『仲間入り』だなんて言うんだろう?
「何でもない」
そう言うと、展人は食卓についた。


 2年B組の教室に入ると、智穂もあたしたちと同じ制服を着ていた。
紺色のブレザーに灰色のスカート、胸には青いリボンがついている。
前の制服は紺色のスカートとブレザー、リボンも紺色の細いやつでブレザーのえりが丸くなっていてかわいかった。
あたしも小学校の時に転校してこなければ、今ごろきっとあの制服を着て鈴木や佐々田、世良と会うことなく南町中学で過ごしていたんだろう。
「おはよう、瞳」
「おはよう。 智穂、新しい制服なんだね」
「今日からね」
智穂は嬉しそうに笑った。
「嬉しい?」
「うん。 今までは自分がみんなと違う、後から入ってきた人間だってどうしても意識してたけど、今日新しい制服を着たらどうでもよくなっちゃった」
そうなんだ。
小学校は私服だったから、転校生がいても一週間もすればみんなと何も変わらない。
でも中学校は制服があるから、いやでも「転校して来た」って意識させられてしまうのかもしれない。
「赤垣くんも、今日から新しい制服なの?」
「そうだよ」
「おはよー、あれ、智穂今日制服違う。制服、クリーニングにでも出したの?」
世良の言葉であたしたちはおかしくなって笑い出した。
世良は突然あたしたちが笑い出したから、びっくりしたみたいだ。
「な、何? どうしたの?」
「だって……『制服違う』って、智穂間違ってないし……」
「こっちが本当の制服なのに……」
世良はあたしたちの言ってる意味がわかると、急にあわてたような声を出した。
「そっか、そうだよねぇ! 智穂は転校生だったんだよね! すっかり忘れてた!」


 世良が転校生だと忘れるくらい、智穂はすっかりこっちの中学になじんでいる。
きっと何も知らない人が見たら、入学から一緒にいたと思われるだろう。
展人も同じだと思っていた。
鈴木や佐々田ともいざこざはあったけど今はずっと前からいたみたいに見える時もある。
なのに、展人が今になって『やっと仲間入りだ』と感じているってことは、これまでは仲間じゃないと、一人だけ違うと感じていたんだろうか。


 あたしは首を左右に軽く振った。
違う、そんなことない。
きっとあたしの考えすぎだ。
どうも考え方が暗い方向へ行ってしまう。
小泉さんのことがあったからか、その前からかよくわからないけど。
そうだ。
県新人大会、梁瀬さんがまた来るかも。
この前鈴木に文化祭の写真とキスの話聞いた時、一緒に聞いちゃえばよかった。
「梁瀬さんの気持ち知ってるのか」って。
でも、あたしはそれを聞いてどうしたいんだろう?
何だか一気にいろんなことを考えすぎて、頭が混乱してきた。
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