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● WILD WIND 3  ●

 ナイフを見せることが合図だったようで、いっせいにあたしの方に近寄ってくる。
とりあえずの目標をナイフを持っている松浦に定める。
寄って来られるよりも素早く、松浦に近寄る。
あたしが近づいたことで、手元がおろそかになっている。
ナイフを持った手首をこぶしで叩くと、あっさりその手を離れていく。
落下したナイフを足で踏みつける。
他の誰かに渡ったらやっかいだ。
寄って来た一人に肩をつかまれる。
腕をつかみ返し体を反転して、その反動でねじり上げる。
「い、痛いっ……」
相手が声をあげるが、無視した。
腕を捨てるように離して、足の下に踏みつけたナイフを拾う。
ゆっくり刃を閉じると、制服のポケットにしまう。
下を見ると、わずかに目標に届かなかったのか、一人があたしの足に手を踏まれていた。
もう一回、全体重をかけて踏みつけておいた。
見ていた小柄な女が殴りかかってこようとしたので、手を受け流すように払い落とす。
そのまま背中に回り込んで足をひっかけると同時に、上からひじを振り下ろす。
小柄女は逆エビぞりのかっこうになって、地面に倒れた。
「なにすんのよ、このブス!」
ショートカットの女が叫びながら、近づいてきた。
小柄女とはとても親しい友だちのようだ。
近づいてきたのをいいことにブレザーの襟首をつかみ、蹴りを入れる。
入ってはいけないところにまともに入ったのか、苦しげな声をあげた。




 他に誰も相手になるのがいなくなってから、ようやく松浦がこぶしを繰り出すが痛くもなんともない。
それ以前に体はおろか顔にも当たってない。
あまりにおかしくて、笑いそうになる。
あたしが繰り出したこぶしが、松浦の顔に当たりそうになってよろける。
あたしはそこを逃さなかった。
足でかかとを絡めとり、完全に地面に転ばせる。
立ったまま、みぞおちにこぶしを打ち込み……たかった。
だが、寸止めにした。
『打ったら、こいつと同じレベルになる』
そう思った。
こんなのと同じものになるなんて、絶対に嫌だ。




 あたしは松浦を見下ろしたまま、告げた。
「もう、あたしやあたしに関わるものに近寄るな。 今度やったら、その時は打ち込むから。 それに……まだ高校に行く気はあるんでしょう?」
最後の言葉に松浦はあたしを見上げる。
もしこのことが先生たちに知られたら、行きたい高校に行けなくなる可能性があることにまさしく今、気づいたようだ。
3年生だというのに、間が抜けている。
「……先生には言わないで、ねぇ、黙ってて、お願いだから……」
返事はしない。
あたしは黙ったままカバンと体操着入れを拾い、その場を立ち去った。







    

                                     
第九話(3)・終
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