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● WILD WIND 6  ●

次の日は普通に学校に行って、授業を受けた。
一応念のため、腰にしっぷを貼ってきた。
授業はともかく部活はできるか心配だったけど、朝練で1本軽く流して走ってみても、腰にも足にも痛みは来なかった。
あれは精神的なものだったのだろうか。



休み時間には、鈴木が佐々田を連れてあたしたちの席の方にやってくる。
おそらく、あたしの様子をうかがいに来たんだろう。
「昨日はありがとう」
「もう平気なのか?」
「うん。 一応、しっぷ貼ってきたけど」
世良と佐々田が会話に割り込んだ。
「昨日ってなぁに〜? そういえば、瞳、部活に来なかったよね?」
「何かあったのか?」
本当のことを話すかどうか、一瞬ためらう。
「俺と香取が部活行こうとしたら、藤谷が昇降口に座ってて、なぁ」
鈴木がそう言いながら、あたしを横目で見る。
話を合わせろ、ということか。
「そうなの。派手にコケちゃって、足痛くなったから鈴木に送ってもらって帰ったのよ。 鈴木、部活休ませちゃってごめんね」
「え、ちょっと、足って」
「平気なのか?」
二人ともあわてた様子で尋ねてくる。
「もう何ともないから平気だよ。心配かけてごめんね」
日直の世良が職員室に、佐々田が隣のクラスへ去ってから、鈴木に謝った。
「嘘つかせてごめん」
「……佐々田はともかく、河内に知られたくなかったんだろ? 
倒した先輩が剣道部の元先輩だし、個人的に売られたケンカだろうから」
「何で知ってるの?」
あたし、昨日、そこまでしゃべったっけ?
「昨日、昇降口で『前の部活の先輩』って言っただろ。 それに『先輩と揉めて部活辞めた』って一年の時に言ってたし。 あれは冬じゃなかったか?」
「あぁ、そんなこと……言ったね、そういえば。 よく覚えてるね」
「記憶力には自信があるんだ」
そう言いながら、鈴木はほほえんだ。
そして、言葉をつないだ。
「……藤谷が斎木ともめたとき、俺たちに言えなかった気持ちが何となくわかった気がしたよ」
あたしは何も言えずに、ただその言葉を聞いていた。



                  
 そうだ、昨日のことを香取くんに口止めしておかなくては。
もし『相手に怪我させた』とか何とか騒がれて正選手になれなかったら、今までの走りはすべて無駄になってしまう。
部活が終わったあと、香取くんを捕まえる。
話しかけたあたしに香取くんは言った。
「あぁ、そのことなら鈴木から昨日のうちに聞いた」
「昨日のうち?」
びっくりして聞き返す。
「昨日、うちの前に鈴木が待ってたんだ。 何かと思って聞いてみたら、『今日見たことは誰にも言うな』って怖い顔して口止めされたよ。
誰かに話すようなことでもないから、最初から黙っているつもりだったけど」
あたしはふと思いついて、尋ねてみる。
「……香取くん、そのとき鈴木は制服だった?」
「うん、制服だった」
「わかった、ありがとうね」
あたしはお礼を言って、その場を離れる。
昨日、あたしを自転車で送って帰ったのは四時半ぐらい。
帰ってから、部屋の時計を見たから間違いない。
普通なら部活が終わるのが六時ぐらいだから、香取くんがまっすぐ家に帰ったとして六時半ぐらいになる。
あたしを降ろしてから、彼を待ち伏せて口止めをしてくれたというのか。



 ――どうして、あたしにそこまでしてくれるの?
いつも無鉄砲で、基本的に怖いものはなくて、売られたケンカはすぐ買っちゃう子なのに。
あたしは何もしてあげられない。



      
 あたしはこれから、この人に何をしてあげられるんだろう。
一生懸命考えなくちゃいけない。         
『こいつと友だちでよかった』
そう言ってもらいたいから。

        

           

          



                                         
第九話(6)・終
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