5月も20日を過ぎたころ、あたしは山内先生から正選手に指名された。
腰は幸い、その後も何ともなく過ごしている。
この前の松浦とのことは、鈴木も香取くんも口にしていないようだ。
ただひたすら二人に感謝するしかない。
2年女子100Mは選手候補が6人いたのだが、最終的に4人になった。
三種競技Aの100Mの方の3人とあわせると、7人いることになる。
三種競技A・Bはトライアスロンみたいな競技で、走る・跳ぶ・投げるの競技を行い、その記録を得点に換算し、合計得点で競う競技だ。
三種競技Aは、男子も女子も100M・走高跳・砲丸投げの種目で競う。
Bはまた競技種目が違うらしい。
練習の後、ユニフォームを渡される。
四月の健康診断の結果から割り出した、おおよそのサイズとのことだが。
学校名の入ったユニフォームを渡された瞬間は、声が出せないくらい嬉しかった。
校内陸上大会は学校指定のジャージだっただけに、なおさら嬉しい。
ユニフォームには青色の地に、白抜きの文字が入っている。
ぼうっと見とれていると、山内先生が言う。
「ユニフォームのサイズ交換は明後日まで受け付ける。 陸上部員は他の大会でも使うから大事に使えよ」
山内先生からの言葉に驚く。
「新しいユニフォームができるまでな」
部費が承認を受けるのは9月の生徒総会だ。
それまではいろいろ不便なこともある。
誰かが声をあげる。
「先生、ハチマキは?」
「おお、忘れてた」
端から順番に回ってきたのを1つ取って、隣に回す。
ユニフォームと同じ青色だ。
ユニフォームとハチマキを受け取ると、ようやく実感が出てきた。
あたしは西山中学の代表として中平市の中体連陸上大会を走るのだ、と。
家に帰ってユニフォームを着てみる。
下の短パンは合うけど、上がきつい。
四月からまた背が伸びたのか、と思うと同時にあることに思い至る。
もしかして、胸がきついのかな?
つい、顔をしかめてしまう。
――嫌だなぁ。
性別で差がつくことをまだ、信じたくない。
いずれそうなっていくことはわかっているし、鈴木に運ばれた時にもあたしを運ぶ力強さや広い背中に『男の子』を感じた。
身体が女に近づくのは、十四歳の女子中学生として当然のことなんだろう。
生理が来たのは小学六年生のとき。
とっくに身体は大人になっていることを認めたくない。
――まだ、こどもでいたい。
無理なのはわかっているけど……。
鏡の前でため息をつく。
明日、山内先生に言ってユニフォームを交換してもらおう。
第九話(7)・終
■中体連=『日本中学校体育連盟』の略称。
■現在、中学陸上において『三種競技A・B』という競技は存在しません。
作中では1991年(平成3年)の設定ですので、そのまま使用いたしました。あらかじめご了承ください。