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● WILD WIND 8  ●

 中体連陸上大会の日がやってきた。
中平市には相川・西山・東山・北沢・南町の五つの中学校がある。
各中学校の全生徒が一ヶ所に集まるのは、この日以外にない。
市のはずれにある、富士見が丘陸上競技場に朝早くからの集合となった。
朝は世良と待ち合わせて自転車で向かう。
和紗にもゆうべ「一緒に行こう」と声をかけたが、「友だちと待ち合わせしたから」と断られた。
まぁ、いつまでもあたしの後ろを歩くばかりではないだろう。
陸上競技場に着くと、各学校のジャージの色が目に入る。
西山中学の青をはじめとし、相川中学のあずき色、東山中学の紺色、北沢中学の橙色、南町中学の緑色がまばゆい。
            



 ――すごい。
会場に流れる熱気のようなものに、圧倒されそうになる。
ひとつの学年に200人として、各中学校に600人前後いることになるなら、単純に5倍としても、約3000人の中学生がこの場にいる。
各中学校ごとにフィールドに集められ、開会式が始まる。
市長だとか市の陸上競技協会の偉い人だとかの話なんて聞いていられないくらい暑い。
5月末の蒸し暑さと相まって、息苦しい。
―――あたし、本当に走れるのかな?
せめて、体力を奪われない午前中のうちに決勝まで終えたい。
たぶん他の競技もあるから、無理だろうけど。




 2年女子100M予選は午前中の早いうちに始まってくれた。
「西山中学、藤谷瞳さん」
「はい」 
名前を呼ばれたので、返事をする。
「あなたは三組目ね」
競技員の人に教えられた集団の中に混ざる。
どういう風に組んだのか知らないけれど、同じ中学の子たちがいない。
所在なさげにしていたら、北沢中学の子と目が合う。
何となく笑い返しておいた。




 そんな中、ひとりだけ違う風を身に着けている子がいた。
あずき色のユニフォームを着ているから、相川中学の子なんだというのはすぐにわかった。          
ぼうっとしているわけでもなく、かといって、大舞台に神経質になっているようでもなくて。
あえて言葉にするなら『凛とした』という雰囲気を漂わせている。



 彼女を見て、あたしは全身に鳥肌が立つのを感じる。
心の中に嵐が吹き荒れる。
――あれは、誰だ?

          






                                            
第九話(8)・終




■フィールド=陸上競技場のトラック(走路)の内側
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