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I WISH(SIDE-A)

 だいぶ前に別れた男と撮った写真が出てきた。
全部捨てたと思ったけど、まだあったのか。


 彼とのきっかけは、当時住んでいたアパート近くのコンビニだった。
そのコンビニを中心として、真逆の方向に住んでいた。
お互いにこんな近くに住んでいるなんて思ってもみなかった。
通っていた大学の学生たちだけが住まうような小さな町ではなかっただけに尚更だ。
元から顔見知りだったし、学んでいる学科も同じだったから、あっという間に私の友達三人と彼の友達三人とでグループができた。
六人で小さな部屋で鍋を囲み、時にはスキー旅行にも行った。
誰かの誕生日だと言っては料理を持って部屋に押しかけたりもした。
ライブでも何でも誰も都合がつかないとき、私は自然と彼を誘っていた。
そしたら、いつの間にか、彼氏と彼女になっていた。




 彼が21歳の誕生日の日にこんなことを言った。
「俺、昔、身体弱くて、医者に『20過ぎまで生きられるかわからない』って言われてたんだって。……20歳越えられて、ものすごく嬉しいよ」
身体が弱かったなんて初耳だった。
そのせいで中学校入学が一年遅れた事もそのときに初めて知った。
当時は言われないと身体が弱いかどうか判らないくらいだった。   

  

 ―――別れたのは、25歳のとき。
私は派遣の仕事のほかにかけもちでバイトを始めた。
派遣の仕事だけじゃやっていけなかったし、いずれ正社員になりたかった。
いつかするだろう転職活動や資格を取るのにお金が必要だった。
彼も仕事が忙しくなってきた頃で、お互いに相手への思いやりが減っていたと、今なら判る。
ある日、彼の部屋に行ったら隣に女が寝ていた。
目を覚ました彼に、部屋の鍵と、もらった指輪を投げつけてそのまま部屋を出た。
確かに心を通わせた時期もあったのに、こんな風に終わるなんて。
最悪だ。
  


 その後、すぐに部屋を引っ越した。
少しだけあった貯金は全部なくなった。
彼の言い訳を聞きたくなくて、家の電話はもちろん、携帯の番号もアドレスも変えた。
転職先の会社で出逢った人と結婚して、二年が過ぎようとしている。



 夫に触れるとき、今でもときおり思い出す。
どうしてあの時、彼に優しくしてやれなかったのか。   
彼の話を一言でも聞いていたなら、今も隣にいたのだろうか。
彼はどうしているだろうか。   



 どうか、神様。
彼が今もどこかで生きていますように。
どれだけボロボロで悲惨だとしても。
身体の弱い彼のそばに、私のような短気じゃない女がいますように。
やさしい女にめぐり合い、愛されていますように。
私が夫と出逢ったように。   

  

 祈らずにはいられない。
どうか……幸せでいますように、と。                                   





SIDE-A・終

                               
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